Paris
出発前パリにて===========
インドに行く前日の心境はなんだか説明がまったくつかないほど複雑だった。悲しくて、腹が立って、腹がたつのを抑えてる自分がいて、そしてどうしてそんなに感情的になってるかわからない自分が宙ぶらりんに木からぶら下がっていた。それは首を吊られて殺され木にぶら下がっている黒人奴隷の悲惨ではまったくなく、けれどもオラウータンが自然にぶら下がってる ごく自然な感じからは程遠い。無意味な宙ぶらりん。とにかく何も説明がつかなくいらいらした。訳もなく、何故か、ものすごく不幸だった。其れは元妻のシャンタルと我が夫のミッシェルが交わす夕食の会話の中に時折不協和音が混ざって私の神経をさかなでるからでもあるだろうし、もしくは、ヴァカンスまでにはここまでやろうと思った作品が、そこまでいかなかったことに、自分自身を責めていたからかもしれない。ヴァカンス前に限って仕事を押し込んでくるクライアントにイラついていたのかもしれない。何よりも一番は、お客を迎えて最後の自宅での夕食だったにも拘らず、まったく美味しく作れなかったことに腹が立って仕方がなかった。美味しいものが食べれないと、世界は悲しく、腹の底から、気に入らないのだった。飢えてる人がいる地球の中で取るに足らない不幸、、<夕食が美味しくなかった>と言う悲しみ。地球の私と言う小さな埃のような存在が、私と言う生物の腹の中の頭脳が不幸でいらいらしていたのだ。取るに足らぬ無意味な腹の中の不幸だった。
そしてそんなシーンから、急に、何も考えずにポカーンとデリーの空港で金持ちインド人に囲まれながら、お高いショップのまんまんなかのラウンジでカルカッタ行きのフライトをまっている。あのときの重い気持ちを考えると、今現在の自分は、まるで靴に羽が生えたように簡単にデリーに飛んできた。実に簡単だった。何も問題がなかった。健康だった。其れがあたかも毎日の仕事のようにデリーの空港まで来ていたのだ。
そして、羽の生えた靴の羽を失い、地獄に急降下する。